労災認定と精神疾患|職場のストレスで病気になったとき、どうすればいい?
「仕事が原因でうつになった気がするけれど、これって労災になるの?」「労災申請には何が必要?まずどこに相談すればいい?」そんな疑問を抱えながら、一人で抱え込んでいませんか。この記事では、精神疾患と労災認定の基本的な仕組み、認定基準、受診・申請の流れ、そして治療について、精神科専門医の監修のもとわかりやすく解説します。
「仕事が原因でうつになった気がするけれど、これって労災になるの?」「労災申請には何が必要?まずどこに相談すればいい?」そんな疑問を抱えながら、一人で抱え込んでいませんか。この記事では、精神疾患と労災認定の基本的な仕組み、認定基準、受診・申請の流れ、そして治療について、精神科専門医の監修のもとわかりやすく解説します。
目次
仕事でひどく落ち込む日が続いている、眠れない夜が増えた、会社に行こうとすると体が動かない——そんな状態になって初めて「もしかして、これは病気なのだろうか」と気づく方は少なくありません。職場での長時間労働、上司からのハラスメント、過度なプレッシャー。こうした出来事が積み重なって精神的な健康が損なわれることは、決して珍しいことではなく、医学的にも認められた現象です。
そのうえで多くの方が「でも、これって労災になるの?」「労災って、けがをした人のためのものでしょ?」という疑問を持たれます。実は、精神疾患も労働災害(労災)の対象になり得ます。ただし、申請の流れや認定の仕組みはやや複雑で、まず精神科・心療内科を受診して診断を受けることが重要な第一歩になります。
この記事では、精神疾患の労災認定の基本的な考え方、認定基準、申請の流れ、そして実際に受けられる治療について、できるだけわかりやすくご説明します。「もしかして自分もそうかも」と思っている方に、少しでも前へ進むための情報をお届けできればと思います。
「労災(労働災害)」とは、仕事上の事故や業務に起因する病気・けがのことを指し、労働者災害補償保険法(労災保険法)によって補償される制度です。工場でのけがや転落事故など、身体的なものが思い浮かびやすいですが、精神疾患も業務との因果関係が認められれば労災の対象になります。
厚生労働省が公表しているデータによると、精神障害に関する労災請求件数は年々増加傾向にあります。2022(令和4)年度には請求件数が2,683件に達し、支給決定(認定)件数は710件となっています。これは過去最多水準であり、職場における精神的な健康問題が社会的に広く認識されるようになってきたことを示しています。
精神疾患の労災認定は、「業務上の強いストレスが主な原因となって発症した精神疾患である」と認められた場合に適用されます。認定されると、療養補償給付(治療費の補償)、休業補償給付(仕事を休んでいる間の給付)、障害補償給付など、さまざまな補償を受けることができます。
精神疾患による労災認定を受けるためには、まず医療機関を受診して診断を受けることが必要不可欠です。「どうせ労災にならないだろう」と思って受診を後回しにしてしまうと、症状が悪化するだけでなく、申請に必要な医療記録が残りにくくなることもあります。まずは受診を優先することが大切です。
労災認定の対象となる精神疾患は、厚生労働省の認定基準において「ICD-10(国際疾病分類第10版)第5章に分類される精神障害」と定められています。具体的には以下のような疾患が含まれます。
なお、統合失調症やてんかんなど、業務との因果関係を認めにくい疾患は原則として対象外とされています。ただし、個々の状況によって判断が異なる場合もあるため、専門医や労働基準監督署への相談が重要です。
また、精神疾患の労災認定においては、単に「仕事がつらかった」という主観的な感想だけでは認定されません。「業務による強い心理的負荷(ストレス)」が客観的に認められることが必要です。この点については次のセクションで詳しく解説します。
厚生労働省が定める精神障害の労災認定基準(令和2年改訂)では、以下の3つの要件がすべて満たされる場合に、業務上の精神障害として認定されます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 対象疾病の発症 | ICD-10第5章に分類される精神障害を発症していること |
| ② 業務による強い心理的負荷 | 発症前おおむね6か月以内に、業務による強い心理的負荷があったこと |
| ③ 業務以外の要因の排除 | 業務以外の心理的負荷や個体側要因(既往歴など)によって発症したとは認められないこと |
要件②の「業務による強い心理的負荷」の判断に使われるのが、「業務による心理的負荷評価表」です。この評価表には、職場で起こり得るさまざまな出来事がリスト化されており、それぞれに「強」「中」「弱」という心理的負荷の強度が設定されています。
たとえば「上司などから、身体的攻撃・精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」「(ひどいいじめを受けた場合は)」「セクシュアルハラスメントを受けた」などは「強」の評価となり得ます。また、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」「長時間労働をした」なども、程度によっては「強」と評価されます。
特に時間外労働(残業)については具体的な目安が示されており、発症前1か月間に約160時間以上の時間外労働があった場合、または発症前2か月間ないし6か月間にわたって月80時間以上の時間外労働が続いていた場合などは「強」と評価されます。
認定基準を「満たすかどうか」は、労働基準監督署が申請書類や調査をもとに総合的に判断します。「自分には当てはまらないかも」と自己判断で申請をあきらめてしまう前に、まずは専門家(産業医、弁護士、社会保険労務士、労働基準監督署の相談窓口など)に相談することをおすすめします。
精神疾患の労災申請は、いくつかのステップを踏んで進めます。手続きが複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ確認していきましょう。
まず最初にすべきことは、精神科または心療内科を受診して、正式な診断を受けることです。労災申請には「精神障害を発症している」という医学的な根拠が必要であり、それは医師による診断書という形で示されます。受診の際には、職場での出来事(時系列で整理しておくと伝えやすい)、症状が始まった時期、現在の症状などを医師に伝えましょう。
労災申請は、原則として会社(事業主)を通じて行います。ただし、会社が協力的でない場合や、ハラスメントの加害者が上司である場合など、会社を通じることが難しい状況もあります。そのような場合は、労働者が直接、管轄の労働基準監督署に申請することも可能です。
主な必要書類としては、療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)、休業補償給付支給請求書(様式第8号)などがあります。また、労働基準監督署から「業務経歴書」や「出来事の状況に関する書類」の提出を求められることもあります。診断書も必要になるため、主治医に作成を依頼しましょう。
申請後、労働基準監督署は会社や申請者への聞き取り、資料の収集などを行い、認定要件を満たしているかどうかを判断します。精神疾患の労災認定は判断に専門性が必要なため、精神科医などの専門家で構成される審査会での審議が行われることもあります。審査には数か月〜1年程度かかる場合もあります。
労災申請と並行して、治療を続けることが非常に重要です。「申請が終わってから治療する」と考える必要はありません。まず医療機関を受診して治療を開始し、その記録(診断書、通院記録など)が労災申請においても重要な証拠になります。治療と申請は同時に進めることができます。
労災に関連して発症した精神疾患の治療は、一般的な精神疾患の治療と基本的には同じです。ただし、職場という具体的なストレス要因が存在するため、そのストレスへの対処も治療の一部として重要になります。
うつ病や適応障害に対しては、症状の程度に応じて薬物療法が検討されます。最も一般的に使用されるのは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれる種類の抗うつ薬です。これらは脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、気分の落ち込みや不安感を改善する働きがあります。
また、不眠が強い場合には睡眠薬や睡眠改善薬が、強い不安がある場合には抗不安薬が補助的に使用されることがあります。薬の種類や用量は、症状・体質・他の薬との兼ね合いなどを考慮して、担当医が慎重に選択します。自己判断で服薬を中断することは症状の悪化につながる可能性があるため、必ず医師に相談してください。
薬物療法と並んで、精神療法(心理療法)も重要な治療の柱です。特に職場ストレスによる精神疾患においては、以下のようなアプローチが有効とされています。
精神疾患の治療において、十分な休養は薬や精神療法と同じくらい重要です。「休むことが申し訳ない」と感じる方もいますが、適切な休養をとることは回復のための医学的に正当な行為です。医師から「休養が必要」と判断された場合は、診断書を発行してもらい、休職制度を利用することを検討してください。
また、職場環境そのものを変える(部署異動、業務量の調整など)ことも、治療の一環として重要です。ストレスの原因が継続したまま治療を続けることは、回復を著しく困難にする場合があります。産業医がいる職場では、産業医を通じた職場との調整も有効な手段のひとつです。
精神科・心療内科への受診を考えたとき、「近くに精神科がない」「予約が取りにくい」「通院する気力がない」「職場や知人に見られるのが怖い」といった不安や障壁を感じる方は多いものです。特に北海道は広大な地域であり、精神科医療機関が都市部に集中しているという実情もあります。
そのような方にとって、オンライン診療は受診のハードルを下げる有力な選択肢になり得ます。スマートフォンやパソコンを使って、自宅や職場から医師の診察を受けられるため、交通手段の問題や移動の疲労を気にせず受診することができます。
北海道オンラインクリニック(医療法人鳳應会)では、精神科専門医・精神保健指定医である道塚瞬医師が、オンラインでの精神科診療を行っています。うつ病、適応障害、不安障害など、職場ストレスに関連した精神疾患の診断・治療に対応しており、初診からオンラインで受診することが可能です。
「労災申請のために診断書が必要」「休職のための書類を書いてもらいたい」といったご相談も、診察の中でお気軽にお伝えいただけます。まずは受診してみて、症状や状況を医師に話してみることが、回復への最初の一歩になります。
北海道オンラインクリニックでは、北海道全域の患者さんがオンラインで精神科診療を受けることができます。予約はウェブサイトから行え、初診・再診ともに対応しています。「まず話を聞いてもらいたい」という段階からご利用いただけますので、気軽にご相談ください。
「自分の症状が労災になるかどうかわからない」「そもそも精神科に行くほどのことなのか」——こうした迷いを抱えたまま、何週間も、何か月も過ごしてしまっている方がいます。その気持ちはとてもよくわかります。精神科への受診には、身体科(内科や外科など)とは異なる心理的な敷居の高さがあることも確かです。
ただ、ひとつだけお伝えしたいことがあります。精神科・心療内科は、「もう限界」になってから行く場所ではなく、「なんとなくつらい」と感じた段階から気軽に相談できる場所です。早期に受診して治療を開始するほど、回復も早くなる傾向があることは、精神医学的に広く知られています。
また、労災認定を考えているかどうかにかかわらず、今の自分の状態を医療的に評価してもらうことには大きな意味があります。「病気ではなかった」と確認されれば安心できますし、「治療が必要な状態」と判断されれば、適切な支援を受けることができます。どちらに転んでも、受診することでマイナスになることはありません。
職場でつらい思いをしている方の中には、「自分が弱いから」「もっと頑張らなければ」と自分を責めてしまっている方も多くいます。しかし、強い心理的ストレスによって脳の機能が影響を受け、精神疾患を発症することは、意志や努力とは無関係の医学的な現象です。あなたが弱いわけでも、怠けているわけでも、ありません。
一人で抱え込まないでください。まずは医師に話してみる、それだけで大丈夫です。
この記事は、医療法人鳳應会・北海道オンラインクリニック統括医師の道塚瞬(精神科専門医・精神保健指定医)が監修しています。記事の内容はあくまでも一般的な情報提供を目的としており、個別の症状や申請に関する判断については、必ず専門の医師や関係機関にご相談ください。
北海道オンラインクリニック(医療法人鳳應会)では、統括医師・道塚瞬が 日本専門医機構認定 精神科専門医および 厚生労働省 精神保健指定医の両資格を有しており、 初診から必ず専門医が担当します。
「近くに専門医がいない」「通院が大変」「プライバシーが心配」という 北海道全域の方々に、自宅から質の高い精神科医療をお届けするために、 オンライン遠隔診療を提供しています。